読むサラダ〜ある作家の挑戦〜

140字小説家✒︎『Twitter novelist』による新しい文学への挑戦記。文字を使って様々な文学への可能性を追求します。一緒に作品を作りませんか?

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『ペンの力』ブログ小説NO.47

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ペンの力

一人の作家がペンと一冊の本で戦争を止めた。

 

彼は戦場の写真を見る度に胸を痛めていた。一度きりの人生。

 

兵士である彼らにも幸せになって欲しい。彼らを待つ家族や友人を思うと、じっとしているわけにはいかなかった。


彼は全世界の兵士に向けて短編の物語を贈った。

 

戦地でそれを手にした兵士は次々に涙し、戦いをやめ、そして帰国した。


物語の内容を彼は明かさなかったが、世界中の兵士が彼の執筆活動を広めた。

 

彼は後に『ノーベル平和賞・文学賞』を同時に受賞した。


そしてこれを機にノーベル平和賞がこの世から無くなった。

 

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『逆サンタクロース』ブログ小説NO.46

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逆サンタクロース

男はゴミで溢れかえったその街で、白く大きな袋を持って歩き回った。

 

寂れて人よりもゴミが目立つその街がいつも泣いているように見えたんだ。

 

男は赤い服を来て、来る日も来る日もゴミを拾い続けた。

 

帰り道ではまるで汚いサンタクロースのようだと人々は笑った。


寝る間も惜しんでゴミを拾い歩く男の背中はとても小さく、まるで膨らんだ白いゴミ袋自体が歩いているように見えた。

 

どんなに街の人から笑われても男はゴミを拾うことを辞めなかった。時には空き缶をぶつけられることも、目の前でゴミを捨てられることもあった。


活動を始めてから10年。

 

男はいつのまにか『逆サンタクロース』と呼ばれていた。

 

12月24日の夜。昔はゴミで埋め尽くされていた海に人々は集まり、男のためにプレゼントを砂浜に置いた。

 

男の白い袋はその日だけ感謝の手紙とプレゼントで一杯になったんだ。

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『心の虹』ブログ小説NO.45

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心の虹

この世で一番、僕は科学の授業が大っ嫌いだ。

 

白衣を身につけた先生が僕ら生徒に小難しい知識をぶつけるだけ。

 

科学の知識をつけて何になる。みんなが先生のように頭が良いわけじゃない。

 

毎日そんな不満に心がすさんでいた。


「何か質問は?」

先生がメガネの位置を中指で直しながら、クールな調子でいつものように僕らに質問した。

 

全然関係のないことを聞いてやろうと僕は手を挙げた。

「今習ったことをマスターすれば、虹がなんで見えるのかわかるようになりますか?」

 

さぁ、馬鹿にすれば良い。太陽光の角度がどうとか、どうせ難しいことを並べるのだろう。


「良い質問だ。虹が見える現象は実に奥深い。例えば君たちがホースで何かを洗う時を想像してみてくれ。そこには今教えた記号や法則みたいなものを超えて、洗う人の心が現れる。美しい気持ちが虹を見せるんだ」


僕は科学が大好きになった。

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『階段』ブログ小説NO.44

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階段

そう

毎晩だ

階段の夢

どこまでも

遥か彼方まで

その階段は続く

見えない行き先へ

汗を流しながら登る

この階段は人生の暗示

ゴールに何が待つのか?

知りたければ登るしかない

そこに必ず光があると信じて

私は今日も登る。夢よ醒めるな

今日こそはエンディングが見たい

たとえそれが地獄であったとしても

辿り着くことに意味がある。さぁ登れ

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『笑う意味』ブログ小説NO.43

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笑う意味

「残念ですが…」

私は診察室で泣き崩れた。たとえ治せなくても医師であるならば、希望を持てる言葉を聞きたかった。

 

可能性は0。そういう台詞だ。

 

私は退院を決意し、余生を好きなことに使うことにした。

 

大好きだったお笑いのまだ売れていないコンビのライブ。私はそこで病気のことを忘れるくらい笑った。

 

本当に久しぶりだった。病室から眺める景色はいつしかセピア色に染まり、生きている意味を見出せなかった日々。

 

それが退院した瞬間にこうだ。世界が変わった瞬間だった。

 

芸人さんと連絡先を交換し、体調が悪い時にはライブ終わりに自宅まで来てくれてネタを披露してくれた。

 

私の笑い声だけがきっとアパートに響き渡っていたことだろう。


母に必死に頼まれた久しぶり診察。行きたくなかったけれど、母のためにも、いつも笑いを届けてくれる彼らのためにも仕方なく診察室をノックする。

 

診察の結果、奇跡的に癌が大幅に小さくなっていた。

 

驚いた医師に私は「私だけの最高の医師たちを見つけましたから」と言ってやったのです。

 

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『消失病』ブログ小説NO.42

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消失病

消失病。


それは国家に指定された難病の中で、1億人に1人という最も重い後天性の病だ。

 

令和後半に罹患者が国内で確認され始め、瞬く間に危険な病気だと認知された。

 

消失病は身体の成長に連れて、徐々に皮膚を含めた細胞が透明になっていくものだ。最後には人として存在するのに、誰からも目視されなくなる孤独な病。


夕日を見ながら病気があっても構わないとこれまで共に歩んでくれた彼女を横目に最後の時を感じていた。

 

右手が透けて、夕日のオレンジが身体に直接染みる。


「ごめんな。今までありがと。消えたらオレのことは忘れてくれよ」

「そんなの絶対に無理。見えなくなるだけで、生きているならそばに居てよ」

 

「それはダメだ。お前にはちゃんとした人生を歩んで欲しいんだ」

「なんで…。なんでよりによってあなたに病が…」

 

最後に二人で流した涙が透明に輝いた。

 

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『沈黙』ブログ小説NO.41

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沈黙

「いつも応援してくれてありがとう。みんなと出会えて良かった。また来世で会おうな!それでは聴いてください。僕らの最後の曲『沈黙』」 

 

ドームが歓声で揺れる。

 

ライブの終曲なのに会場を埋め尽くした数千人のファンは帰る気配もない。 

 

「さぁ、もう逝こう。あの大空の彼方へ」

サビ前で地鳴りのような盛り上がりを見せる。そしてファンがグッズで買ったレプリカの拳銃を一斉にこめかみに当てた。

 

この曲の最後のサビでバンドメンバーがする定番の仕草だ。これがどのバンドよりもカッコいい。

 

彼らの歌詞はいつも生と死の狭間で揺れていて、生きにくい現代社会でもがく若者に絶大な支持を得ていた。

 

突然の銃声はファンの歓声の中に消えた。

 

舞台に流れるヴォーカルの鮮血に誰も気づくことはなかった。 

 

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『万華鏡』ブログ小説NO.40

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万華鏡

霞雲の上に座り、万華鏡であの子を探す。

 

ぼんやりと青く光る筒をゆっくり左に回し、彼女の過ごした時を遡った。

 

彼女は幼い頃に事故で両親を亡くし、それでも笑いながらこれまで歩いてきた。

 

時には孤独で涙を流す夜もあったけれど、決して人に見せることはなかった。

 

少しの罪悪感を覚えながら今度はぼんやりと赤く光る万華鏡をゆっくりと右に回した。

 

スライドショーのように彼女の未来がコマ送りで見えた。

 

覗いた彼女の未来には僕の姿があった。

 

僕は彼女の元へと走った。

 

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『書き出しだけ大賞』を狙う✒︎

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とにかく楽しい

こんにちは。とうかいりんです。

 

7/15に〆切が迫ったTwitter企画の『書き出しだけ大賞』。サンクチュアリ出版さんが手掛ける面白い文学賞です!

 

ルールは簡単。

『書き出しの一行』だけで、どれだけ面白い作品と思わせることができるか!

 

楽しくて私もつい11作品も応募してしまいました。まだまだ永遠に書けそう(笑)。

 

こういった企画は見つけるだけでワクワクします。

 

賞金は付加価値に過ぎず、『あぁ、こんな意外な書き出しが可能なんだ』ということを他の書き手さんから学べるいい機会。

 

皆さまもぜひTwitterをのぞいてみませんか?(人゚∀゚*)

 

天使の囀り✒︎ (@tensino_saezuri) | Twitter

 

『夜喰虫』ブログ小説NO.39

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夜喰虫

蝉が夏を奏でる。

 

そよ風に呼応するように風鈴の音が後を追う。

 

今も昔も変わらない日本の夏の風景。

 

風呂上がりに家族でスイカをかじる。それが一番の楽しみだった夏の夜。

 

「昔はね、夏といえば蚊やハエに悩まされたものよ」

母が聞いたことのない虫の名前を口にした。僕はスイカの種をスプーンでよけながら母に聞く。

 

「何それ?聞いたことないや」

 

今から百年後の日本。

 

ついに人類は邪魔な虫を科学技術により根絶した。夏に刺された蚊の跡に悩むことも、腐敗した食品にハエが飛び回ることもなくなっていた。

 

「母さん!!  窓の外がおかしい!」

もうすぐ深夜だというのに、突然我が家にスポットライトがあたったように外が明るくなった。目を細めて網戸越しに景色を見る。

 

「何?え?嘘…」

 

根絶された虫たちは黙っていなかった。

 

『夜喰虫ーよるくいむしー』

 

大量発生したそいつらは、身体中から光を放ち、日本から夜を奪った。その様子は、まるで闇を食べ尽くすかの様だった。

 

僕が過ごした最後の夏の夜。夜は暗いものだという思い出は、このあと遠い過去の記憶となる。

 

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『召喚』ブログ小説NO.38

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召喚

赤く光る人差し指を突き立て、一直線に大地へと落とした。

 

指先で素早く魔法円を描くと両手で印を組み、術を唱える。

 

辺り一面が闇に包まれ、イメージしたモノを自在に呼び出すことができた。

 

『召喚士』

 

私は魔法学校を首席で卒業し、皆の憧れの的となった。

 

龍などの幻獣召喚を必死で練習する親友を横目に私は微笑んだ。

 

「首席は何を出すのです?」

親友が汗をリストバンドで拭いながら私に聞く。

 

私は笑顔で即答する。

「おじいちゃん」

 

ずっと会いたかった。

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『希望のランタン』ブログ小説NO.37

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希望のランタン

「いらっしゃい」

カランと店内入口の鈴が鳴ると同時に老婆が僕を睨らみながらそう呟いた。


「ここで希望のランタンが手に入ると聞いたんです。不治の病の母を治したくて」

店内には極彩色に輝くランタンが所狭しと並んでいた。

 

一つ一つが繊細な輝きを放っている。

 

「何でもあるよ。でも使い方を間違えるな。ランタンによっては昼夜を逆転させちまったり、古代生物を呼び寄せちまう物まであるからね。そう言えば先日は使い手がランタンの中に吸い込まれるレア物も売れたんだった」


僕は震える手を押さえながら母の顔を思い浮かべ、彩り豊かな一つを手に取った。

 

「あぁ、それにしたか。灯りを点けてみてのお楽しみだね」

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『輪廻転生』ブログ小説NO.36

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輪廻転生

夏の蚊は願った。

人に忌み嫌われる存在でなく、喜ばれる存在になりたいと。

 

『神は蚊から針を奪い、代わりに光を与えた』


蛍は願った。

儚い命で飛び回るよりも大地を強く駆け回りたいと。

 

『神は蛍から光を奪い、代わりに脚と角を与えた』


ユニコーンは願った。

贅沢な悩みだが、この姿のまま空を再び飛んでみたいと。

 

『神はユニコーンから角を奪い、代わりに翼を与えた』

 


ペガサスは願った。

人にいつか触れてみたいと。

 

『神はペガサスから翼を奪い、代わりに針を与えた』

 

夏の蚊は想う。あぁ、自分は何がしたかったのだろうと。

 

願いが明確でなかったために、神の慈悲を活かすことができなかった自分に涙した。

 

夏のにわか雨は上空で嘆く蚊が起こす。

 

『神は蚊から羽と針とその姿形を奪い、代わりに無力な姿に変えた』

 

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ついに家族が見つかりました🐈

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運命

こんにちは。とうかいりんです。

 

この日曜日!ついに我が家のきな子にもらい手が見つかりました!

 

その女性は来場するなり、じーっときな子のケージを見つめてくれていました。

 

考えること30分。

 

「だっこしますか?」と聞いてみると、「はい」と。

 

きな子は珍しく大人しく抱かれてくれました。その方の家は我が家と同じく先住のオス猫が二匹。ありがたい環境です。

 

先住さんに馴染むかが心配なようで、まずはトライアルを。

 

我が家の子供達は馴染まなければいつでも帰ってきていいよと(笑)。おい。

 

とにもかくにも今日がきな子と過ごす最高の夜。子どもは大ショックを隠しきれませんが、精一杯抱っこして遊んであげようと思います(=^x^=)

『白と黒』ブログ小説NO.35

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白と黒

満月が二人の術師を見守る。闇が深まり、怪鳥がけたたましく鳴いた。

 

白と黒の術師は目元だけ晒し、互いを威圧している。交錯する視線がお互いの体を縛り付け、命のやり取りを慎重にさせた。


空気が張り詰め、風が運んできた木の葉をその圧で真っ二つに割った。


それを合図に黒の術師が先に動く。

素早く五芒星を夜空に描くと、黒い雨を降らした。触れれば即死。

 

無数の雨粒は容赦なく、白の術師に降りかかる。

 

「殺った」

黒の術師はそう思った。


ーー刹那。

白の術師が夜霧へと変わる。黒い雨は標的を失い、虚しく地を叩いた。

 

黒の術師が気付いた時にはもう遅い。白の術師の吐息を耳元で感じ、闇へと落ちていった。

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